訪問診療・在宅ケア〜今井稔也たいとう診療所院長「診療だけ行っても元気になれない」
下町情緒あふれる浅草、上野などの地区を抱える東京都台東区。人口は約16万人。面積は約10キロ平方メートルと23区内で最も小さいが、高齢化率は約24%、住民の4人に1人は65歳以上の高齢者である。今井稔也医師は平成9年から地域に密着した診療活動を続けている。
卒後研修を終えた後、高知県の医療法人近森会近森リハビリテーション病院で訪問診療、在宅ケアに従事。平成9年に東京・台東区に開設した「たいとう診療所」院長に就任、15年には同じ医療法人財団新誠会(石川誠理事長)のリハビリテーション医療サービスを中核に各種ケアサービスの提供を行う「在宅総合ケアセンター元浅草(東京都台東区元浅草1―6―17)」が併設され、現在はセンター長も兼任している。
「当時の東京では、リハビリテーション医療の実態がつかめず、特に在宅リハがどうなっているのか実態が分からなかった。そこで気軽に動きやすい診療所で地域に根ざした活動をということで診療を始めましたが、急性期を脱した患者を受け入れる回復期リハ、さらに維持期に入り障害を持ちながらも家で安心して暮らせるための訪問リハなどの一貫した活動が不十分な状況でした」。
訪問リハの目的は、患者が障害を持ったまま自宅へ帰り、日常生活を送る中で、閉じこもりにならず社会参加できるようにケアを行っていくことにある。「診療だけしていても人は元気になりません。清潔や精神的なケア、運動機能を高めるケアなど、看護職、介護職らスタッフの関わりが非常に大切です。医師が障害の全体像を把握し、患者さんの状態を診て分かっていることが在宅医療やリハビリテーションには非常に重要になります。全貌を把握する医師がいた上で、状態に応じて専門医療機関に紹介をするなどきちんとした見極めを行っていく。患者さんが生活をする中で、長きに亘って関わらせてもらえるのが地域医療の役割です。いざ患者さんやご家族が困ったときに、縁の下の力持ちのように役立つのが地域での医師の役割だと思っています」と今井医師は言う。
拠点となる在宅総合ケアセンター元浅草では医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士らが連携し、主に、訪問、通院・通所サービスを提供している。訪問ケアを受ける患者の平均年齢は約81歳、外来患者になると72〜73歳。主な疾患は、脳卒中が半数、骨関節疾患が3割、変性疾患、呼吸器疾患が1割程度など。
今井医師は午前中の外来診療を終えると午後からスクーターで往診に出る。診療圏は半径約3キロで、台東区のほか墨田区・千代田区など周辺区域を含め20万人程度。1日の往診件数は5〜7件。現在約80名の患者を受け持ち、2週間に1回あるいは容体が安定している患者の場合は、月に1回程度の割合で往診を行っている。 「聴診器を当てるだけなら1〜2分で済みます。しかし、患者さんたちは『診てもらいに来てくれている』というよりも、客に敷居をまたがせ、『そこに座れ』というような気持ちで接してくれます。僕は高知時代からそうした人と人との付き合いの中で、患者さんの診察だけでなく、家族の状況や生活全体を見るスタイルの往診を続けています」と今井医師。さらに「患者さんが終焉を迎えるときには、僕の選択でご家族の方が満足できるか、その方法で良いのか悪いのか悩みます。患者さんたちの気持ちも変わりますので、僕が迷わず決断を下せばこちらは楽なのですが、しばらくは患者さん、ご家族の揺れる気持ちに付き合います」と、訪問診療に携わる難しさを語る。
訪問診療専門の施設ではなく、外来診療も行う理由について「閉じこもりにさせないため、元気になったら出て行く場を作らなければいけない。在宅と外来は繋がっており、外来は絶対にはずせない存在です」と話す。また、患者から今井医師には24時間連絡を取れる体制になっているが「きちんとフォローアップしていて、医者と連絡が着くとか、何か起こったときにしっかりサポートしていることが分かっていれば、患者さんたちはそれほど慌てません。逆に僕が夜でも動くことも知っているので、電話がかかってくることはめったにないです」と続ける。
新医師臨床研修制度がスタート、地域医療研修が必修化され、同センターにも研修医が訪れる。彼らへのメッセージを聞くと「急性期医療で治療を行った後、自分が救った患者さんが一体どのような生活を送り、どのような展開になっていくのかをよく知って欲しい」と話す。
「患者さんの退院後のことを考えれば、医師は皆リハビリ的なことを考えていくことになる。障害を持っている方に対し、障害学の知識をある程度持った上で地域で診療を行うことができ、プライマリ・ケアもきちんと担う、というのが僕の考えるリハビリテーション科です。リハビリテーション科はプライマリ・ケアと表裏一体で動くことが重要です」。 |